2018年12月8日土曜日

宗教史学研究所 第68回研究会

宗教史学研究所 第68回研究会

日時: 2019年1月26日(土)13:00-18:00
場所: 東洋英和女学院大学 大学院205教室

プログラム
12:30 受付開始

13:00-14:30
発表1 田口博子(白百合女子大学)
「ものをめぐる物語―D. W. ウィニコットの「移行対象」理論について」
【概要】
 イギリスの児童精神分析科医 D. W. ウィニコットは、創造性を芸術作品の制作や研究と関連付けるのみならず、「人生は生きるに値する」という気持ちと定義する。そしてその起源を乳児期の心的発達段階に求めた。ウィニコットによれば、対象を主観的に認識する段階から客観的に認識する段階への推移が、生後 4、5 カ月ごろに始まる。この段階で生じる「移行対象」(幼いこどもが持ち歩くぬいぐるみなど)や「移行現象」(お気に入りのメロディーなど)の本質は、決して客観的に解決することはできないパラドックスである。このような内的体験と外的対象についての体験が重なるところに「中間領域」が成立する。中間領域は「遊ぶこと」によって表象され、生涯にわたって人間の精神生活の重要な場を占めるという。
 『遊ぶことと現実』(1971)の序論では、精神分析以外の営為も中間領域に対峙してきたことが指摘され、とりわけ哲学では「間主観性」、神学においては「実体変化」に関する論争に集約される。今回の発表では「移行対象」を端緒として、ひととひとの関連(間主観性)と、ひとと超越的なもののかかわり(実体変化)がどのような接点を持ちうるのか、他者を他者として認識することがなぜ絶対者の定立につながるのかを考察したい。

14:30-14:40 休憩

14:40-16:10 
発表2 冨澤かな(静岡県立大学)
人と物をこえて―二次元メディアが描く(無-)媒介の世界
【概要】
 宗教の多様な役割の中で、人と人、物、世界の関係を示し、時にその間の壁をこえて取り結ぶ「媒介」としてのそれの重要性は、ここ数年の本研究会の蓄積からも見て取れよう。では、宗教学の対象が既存宗教の枠組みを超え、代替宗教やさまざまな「スピリチュアリティ」のあらわれへと拡大する現在、特に日本で、そういった「媒介」の物語がどこで多く生産・受容されているかを考えた場合、アニメ、マンガ、ゲームなどの重要性に着目せざるを得ない。これらのポップカルチャーの宗教性については様々に指摘がなされ、研究も広がっているが、しかし、たとえば神・霊・聖職者・妖怪・輪廻などの宗教的な要素の指摘をこえて、その「宗教性」を論じることは簡単ではなく、方法論が模索されている段階である。その難しさの認識の上で本発表は、宗教的モチーフへの着目から少し距離を取り、異なる存在の接続・変容を重要なテーマとする作品に着目したい。具体的には、アニメを中心に、ウェブ上のユーザー評価を参照しつつ、「擬人化」と、特に「人間と世界の変容」の二つのテーマに焦点をあてる。正直なところ、ここから宗教史学としてどのような分析ができるのか、見通しはたっていない。しかし少なくとも、「人、物、世界の媒介」を語るアニメ作品を何らかの基準で抽出し、宗教史研究者間で共有することで、ポップカルチャーの宗教性という曖昧なテーマに、一つの視角を得る可能性があるものと期待したい。

16:10-16:20 参加者自己紹介
16:20-16:30 休憩

16:30-18:00
発表3 池澤 優(東京大学)
戦国秦漢の墓葬における死者と死後世界の表象―墓・随葬品という媒体
【概要】
 墓という媒体は、どの時代、どの文化でも、一定程度は死者と死後世界を表象するであろう。但し、墓は死後にかかわる観念の全てを表すわけではない。というのは、墓は死者に対する儀礼行為の一環であり、死者がその儀礼行為に不満を抱いたら元も子もないため、何よりも死者を満足させるための表象にならざるを得ないからである。ただ、逆に言えば、死者を満足させるという指向性の中に死後に関する一定のイメージを読み取ることもできることになる。本発表では、戦国秦漢時代の中国に題材をとり、墓葬の構造、画像、壁画、随葬品がいかなる死者と死後世界を表しているのかを論じる。