2019年5月30日木曜日

京都ユダヤ思想学会第12回学術大会(2019)

京都ユダヤ思想学会
2019年度第12回学術大会

日時: 2019年6月29日(土)
会場: 同志社大学(烏丸キャンパス)志高館SK118教室

大会プログラム
9:10 受付開始

【個人研究発表】9:40−12:20
9:40-10:20 研究発表①
 「人工知能と人間的思考 ―ゴーレムの現代的継承者はどこまで人間に近付けるか―」
発表者:吉野 斉志(京都大学非常勤研究員)
司会:小原 克博(同志社大学神学部)

10:20-11:00 研究発表②
「詩篇88編における多様な死者表現とその意義」
発表者:新井 雅貴(同志社大学神学研究科博士後期課程)
司会:岩嵜 大悟(古代オリエント博物館共同研究員) 

11:00-11:40 研究発表③
「上海無国籍避難民指定居住区(「上海ゲットー」)の設置過程―實吉敏郎海軍大佐の未発表文書をもとに―」
発表者:菅野 賢治(東京理科大学)
司会:向井 直己(京都大学特定研究員)

11:40−12:20 研究発表④
「マイモニデスにおける自由意志の概念」
発表者:神田 愛子(同志社大学神学研究科博士後期課程)
司会:志田 雅宏(早稲田大学招聘研究員)

12:20−13:30 昼食

【シンポジウム】
「タルグムの世界 ―聖書翻訳とユダヤの伝統―」
13:30−13:40 司会挨拶:加藤 哲平(日本学術振興会特別研究員PD)
13:40−14:40 基調講演:勝又 悦子(同志社大学)
(休憩:14:40-15:00)
15:00−16:00 コメント:阿部 望(獨協大学)、飯郷 友康(東京大学)、大澤 耕史(中京大学)   
16:00−17:00 質疑応答

17:10−18:00   総会
18:15−           懇親会



<シンポジウム趣旨>   加藤 哲平(日本学術振興会PD/シンポジウム企画担当)
 2017年には「新改訳2017」(新日本聖書刊行会)が、2018年には「聖書協会共同訳」(日本聖書協会)が刊行され、にわかに「聖書翻訳」への関心が高まっている。聖書というあまりにも人口に膾炙した宗教文学を、いかにして新しく翻訳することができるのか。これは困難かつチャレンジングな問いである。この問いに答えるために、たとえば「聖書協会共同訳」は、「スコポス理論」という新しい翻訳理論に基づいて翻訳するという方針を取った。つまり、意訳・逐語訳といった従来の二項対立にとらわれずに、読者対象と目的(=スコポス)に合わせた翻訳を作成することで、教会での礼拝にふさわしい聖書を目指したわけである。
 このように最新の翻訳理論を駆使するという方針は、もちろん有効である。しかしながら、聖書は古来よりさまざまな言語に翻訳されることで多くの読者を獲得してきた歴史がある。そうした伝統に目を向けることは、聖書翻訳に新たな視点を与えてくれるのではないだろうか。前3世紀にエルサレムから招聘された72人の長老たちがアレクサンドリアでわずか72日間でギリシア語に訳したとされる「七十人訳」、その七十人訳に飽き足らなくなったユダヤ人たちがよりヘブライ語テクストに近づけようとして作成したギリシア語訳の「アクィラ訳」「シュンマコス訳」「テオドティオン訳」、そしてベツレヘムの聖書学者ヒエロニュムスがギリシア教父やユダヤ賢者の解釈を学びながら16年かけてラテン語に訳した「ウルガータ」など、ヘブライ語聖書の古代語訳だけでもいくつもの伝統がある。
 これら古代語訳の中で、とりわけ重要であるにもかかわらず、わが国ではほとんど知られていないのがアラム語訳の「タルグム」である。ヘブライ語原典に寄り添い、ときに逸脱しながら聖書の意味を解き明かしてきたタルグムには、ラビ伝承によれば、書記エズラの律法朗読(ネヘミヤ記8章)以来の長い伝統があるとされている。しかもひとくちにタルグムといっても、公認版として比較的原文に忠実な「オンケロス」や「ヨナタン」から、ミドラッシュのように自由闊達にスピンオフを繰り返す「偽ヨナタン」まで多様性に富んでいる。また1956年にスペインの文献学者アレハンドロ・ディエズ・マチョがヴァチカン図書館で発見した「ネオフィティ」の衝撃は、まさに聖書学史上の一大事件だった。
 京都ユダヤ思想学会は、聖書翻訳への関心が高まっているまさに今このときに、タルグムというユダヤの豊穣な世界を多くの人に知っていただきたいと考える。このような問題意識に基づき、基調講演者としてタルグムとラビ文学をご専門とする勝又悦子氏(同志社大学)を、またコメンテーターとして阿部望氏(獨協大学)、飯郷友康氏(東京大学)、大澤耕史氏(中京大学)をお迎えする。聖書を翻訳するとはどのような行為なのか。聖書学やユダヤ学のみならず、宗教学、哲学、古典学、翻訳学といった広いフィールドに開か
れたこの問いを、今こそ考えてみたい。

京都ユダヤ思想学会ウェブサイト

2019年5月16日木曜日

西洋中世学会第11回大会

西洋中世学会
第11回大会
大阪市立大学 杉本キャンパス

2019年6月22日(土)
13:00~13:15 特別展示解説講演(田中記念館 ・ 講堂)
八木健治(羊皮紙工房)「ユダヤの羊皮紙とその周辺」

自由論題報告13:30~17:30(田中記念館 ・ 講堂)
13:30 下園 知弥(西南学院大学) 司会:阿部 善彦 (立教大学)
愛による神化 -クレルヴォーのベルナルドゥスにおける deificatio概念とその源泉

14:15 井上 果歩(サウサンプトン大学大学院)司会:吉川文 (東京学芸大学)
「長い13世紀」におけるコンドゥクトゥス

15:15 野邊 晴陽(東京大学大学院) 司会:山口 雅広 (龍谷大学)
トマス・アクィナス『十戒講話』と、そこでの法(lex)の理解について

16:00 市川 佳世子(慶應義塾大学) 司会:金原 由紀子 (尚美学園大学)
12-13世紀における「聖母戴冠」図像の起源と普及の政治的背景

16:45 桑原 夏子(日本学術振興会) 司会:谷古宇 尚 (北海道大学)
タッデオ・ディ・バルトロ作、ピサ、サン・フランチェスコ聖堂サルディ礼拝堂《聖母のよみがえり》の制作背景

17:50 ユダヤ音楽演奏(田中記念館 ・ 講堂)
東欧ユダヤ人のクレズマー音楽
 -伝統的な結婚式の音楽とアメリカ移民期の音楽

特別展示 シンポジウム連動企画(田中記念館2階 会議室)
22日(土)15:00~17:00/23日(日)9:00~17:00
「ユダヤ教とユダヤ人に関する書物展示」
八木 健治/羊皮紙工房

2019年6月23日(日)
ポスター・セッション(高原記念館1階 学友ホール)

23日(日)9:00~10:45

シンポジウム 「中世のユダヤ人―時空の彼方に―」
11:00~16:30(田中記念館 ・ 講堂)

コーディネーター・司会: 佐々木 博光 (大阪府立大学)
趣旨説明 佐々木 博光 (大阪府立大学)

報告
11:10 志田 雅宏(早稲田大学)
神の名前の使い手 -中世ユダヤ教民間伝承におけるキリスト教世界への対抗物語-

11:40 黒岩 三恵(立教大学) 
中世ユダヤ写本の彩色 -独自性・キリスト教社会との共存・迫害の視点から-

12:10~13:30 昼食

13:30 嶋田 英晴(國學院大學)
ゲオーニーム末のイスラーム圏のユダヤ教徒の動向

14:00 三代 真理子(東京藝術大学)
中世のユダヤ礼拝音楽とクレズマー音楽-旋律の旋法的特徴にみられる両音楽の関連性-

14:30 関 哲行(流通経済大学)
中近世スペインのユダヤ人とコンベルソ

15:15 全体討論

西洋中世学会ホームページ
(大会申し込み情報、報告要旨等あり)



2019年5月4日土曜日

宗教史学研究所 第69回研究会

宗教史学研究所
第69回研究会

日時:2019年6月1日(土)13:00~18:00
会場:東洋英和女学院大学院 六本木校舎 201教室

12:30~ 開場

13:00~ 発表1
久保田 浩
「越境の想像力―境域としての宗教的ユートピア/ディストピア」
「越境」をヒントに宗教史的諸事象を考える際の一つの可能性を、境界の「向こう」の世界を「こちら」にいながらにして如何に構想・想像し得るのかという問いを導きの糸として考究する。(「死後世界」とは異なり)現実の世界と断絶しておらず、時間的・空間的連続性(つまり、到達・実現可能性)を前提とした宗教的な理想世界・ユートピアを想像するという営為を、「向こう」の世界と「こちら」の世界との「境域」形成の試みとして捉え、宗教史における「越境」性の構造の一端を明らかにする。具体的には、1930年代のドイツ語圏において、とりわけ文化的かつエスニック・アイデンティティの確立を希求する社会状況の中で提出された(宗教的)ユートピアの諸構想(母権性社会、アトランティス、アーリア人の原社会、民族教会、見えざる教会等々)を素材として論じ、「向こう」の世界へ「越境」しようとする(「境域」形成の)試みから、「こちら」の世界の特徴を逆照射する。

14:10~ 発表2
鶴岡 賀雄
「「宗教」を越える:ライモン・パニカーの試行」
ライモン・パニカー(Raimon Panikkar, 1918 – 2010)は、インド出身の父親をもつカタルーニャの宗教思想家。哲学、化学、神学を学び、カトリックの司祭となるが、30 才台でインドに渡りヒンドゥー教、仏教を本格的に研究、アメリカの大学で長く宗教学を教える。1987 年、バルセロナ近郊に自身の研究・活動施設Vivarium を設立、同地で没。キリスト教、ヒンドゥー教、仏教、自然科学(近代思想)をともに肯定する世界観の構築、および実践を目指し、複数の言語で数十冊の著作を著す。欧米(とくにカトリック圏)では高名だが、日本ではあまり紹介されていない。一つの宗教伝統を越え、複数の宗教伝統を生きることの可能性を、理論的・実践的に探究したその試みの内容、意義、問題性について、「神-人-宇宙的(cosmotheoandric)経験」、「多元論」、「神話」、「リズム」、「解釈」等、思想構築の鍵概念を検討することで考察する。

14:50~ 発表③
細田 あや子
「メソポタミアのアーシプによる神像の「口洗い」儀礼」
メソポタミアでは宗教儀礼の実践と医術のそれは多分に重複していた。それら双方の領域にまたがる職種に従事していたのが、アーシプ/マシュマシュと呼ばれる職能者である。彼らは神殿や王宮での儀礼のほか、病気の診断、治療、薬の調合、占いや予言など、多方面にわたることに通じていた。そのなかで本発表では、神像の「口洗い」という儀礼を取り上げる。これは、新しく神像が制作されたとき、あるいは破損した神像を修復する際、神像の口を洗うという所作を中心とした儀礼である。儀礼執行者であるアーシプにより、口洗いとともに口開けの行為もなされ、物体としての像に生命が宿ることとなる。とくにアーシプが二日間にわたって、人の手により作られたものを「天において生まれた神」(唱えごと文書4, 23a: Walker and Dick 2001: The Induction of the Cult Image in Ancient Mesopotamia: The Mesopotamian Mīs Pî Ritual, Helsinki, 163, 184)へと変容させる過程に着目する。アーシプは生と死の領域を越境する・越境させる権能をもつと考えられる。本発表では口洗いなどの所作と唱えごとを伴う儀礼文書を検討して、事物に生命を付与し生死をつかさどるアーシプの能力や技について考察する。

15:30~ 休憩

15:50~ 発表4
深澤 英隆
「「芸術宗教」と「宗教芸術」―宗教と芸術の臨界」
ドイツ・ロマン派の周辺で生まれた用語に「芸術宗教」(Kunstreligion)というものがある。それ以来、主として芸術作品や芸術制作を絶対化し、宗教に代わってそれらを聖化しようとする近代の潮流をさして、批評的にこの語が用いられることが多い。これは一見したところ宗教の芸術への越境・転移であるかに見える。その場合、この出来事を実体性ある宗教と実体性ある芸術との相互関係・相互転換とのみ捉えることは不適切であろう。むしろそこでは、宗教の概念と芸術の概念が対照されることによって、両者の領域の境界が新たに引かれ、両者の再定義がなされると見るべきであろう。本発表では、19 世紀末以来キリスト教に反旗を翻したドイツ民族主義宗教運動、とりわけその「美学的」潮流を取り上げ、近代に発する芸術宗教的動向と、新たな実定的宗教の創設というできごとが交錯するなかで、宗教と芸術が再定義され、「宗教芸術」と「芸術宗教」が交差し、相互転換するプロセスを解明することとしたい。

16:30~ 発表5
林 淳
「近代の非僧非俗―鴻雪爪の肉食妻帯論」

17:10~ 発表6
渡辺 和子
「『エサルハドン王位継承誓約文書』(前672年)による越境の諸相」
アッシリア王エサルハドンが前672 年に発行した『エサルハドン王位継承誓約文書』(ESOD)は、当時ほぼ最大版図に達していたアッシリアの領土およびアッシリア支配が及ぶ地域に配布された。その目的はエサルハドンの死後に生じる王権の空白期間に、息子の一人アッシュルバニパルをアッシリアの、また別の息子シャマシュ・シュム・ウキンをバビロニアの王とすることを守らせることであった。そのため、アッシリア内外の要人を呼び出してそれを守ることを誓約させ、その内容を記したESOD の書板を誓約者ごとに持ち帰らせて書板そのものをそれぞれの神として守ることを要求した。ESOD には、軍事力だけでは十分な統治力・抑止力を発揮し得ない広大な領土と、言語、宗教、文化などにおいて多様な背景をもつ人々に対して、王位継承の誓約を守らせるために、様々な境界を越え出る画期的な工夫がなされていた。さらに2012 年に公刊されたESOD の「タイナト版」は多くの新事実をもたらしたと同時に、ESOD 研究の新たな局面を開いた。

17:50~ 総括
(*発表順、発表題目は変更される場合があります)


Excavation Report of Tel Rekhesh 2016 in Hadashot Arkheologiyot 131 (2019)

Hadashot Arkheologiyot
Excavations and Surveys in Israel
Volume 131 (2019)

Tel Rekhesh 2016
by S. Hasegawa, H. Kuwabara and Y. Paz

Preliminary Report (15/04/2019)

2019年5月2日木曜日

日本ユダヤ学会公開シンポジウム「エルサレム——聖都をめぐる政治——」

日本ユダヤ学会
公開シンポジウム
「エルサレム――聖都をめぐる政治――」

2019年5月25日(土)14:00-17:50
学習院女子大学 2号館 222教室

14:00-14:10
開会のあいさつ:市川裕(東京大学)

14:10-14:50
辻田俊哉(大阪大学)
「エルサレムをめぐるイスラエルの政策動向」
イスラエルはエルサレムを「永遠で不可分の」首都と主張し、その目的に向け、様々な政策を実施してきた。本報告では、近年のエルサレムに関するイスラエルの政治、安全保障、経済、科学技術イノベーション面での政策動向と国内における政策課題をみていき、最後に、諸政策が中東和平プロセスに及ぼしうる影響について考える。
(質疑応答10分)

15:00-15:40
臼杵陽(日本女子大学)
「イスラーム的エルサレムの現在」
イスラーム的エルサレムとは、アル・アクサー・モスクおよび岩のドームがあるアル・ハラム・アッ・シャリーフ(聖域)のもつ象徴性によって表象される。本報告ではこの聖域をめぐる争いを、歴史的に重層化された「地層」の観点からイスラーム的エルサレムの現在を踏まえて考察する。
(質疑応答10分)

15:50-16:10 休憩

16:10-17:00
並木麻衣(日本国際ボランティアセンター)
「パレスチナ人住民の立場から:聖都エルサレムが抱える課題と展望」
エルサレム人口の38%を占めるとされるパレスチナ人住民は、ユダヤ系住民とは異なる厳しい境遇の中で暮らし続けている。本発表では、東エルサレムで支援活動を行うNGOスタッフの視点から見えた、現地の人々が直面する問題、暮らしを支える共助の試みや、守られるべき権利を訴え続ける人々の姿について報告する。
(質疑応答10分)

17:00-17:50 全体討議