2017年11月7日火曜日

第6回宗教的価値国際学術大会The 6th International Conference on Values in Religions

第6回宗教的価値国際学術大会 
The 6th International Conference on Values in Religions

同志社大学一神教学際研究センター(CISMOR)、カイロ大学東洋学研究所主催
日時:2017年12月02日(土)9:30-17:10
場所:同志社大学今出川キャンパス 良心館RY305教室
(京都市営地下鉄烏丸線「今出川駅」下車3番出口徒歩3分)

講師:
Naglaa Rafat Salem (Cairo University)
Gamal Abd elsamia Elshazly (Cairo University)
Mohamed Ahmed Saleh ( Cairo University)
Mohamed Hawary (Ain Shames University)
Mohamed Fawzy Dief (Menoufia University)
Etsuko Katsumata (Doshisha University)
Sik-ping Choi (Bible Seminary of Honk Kong)
Abdulla Galadari (Khalifa University/ Al-Maktoum College)
Caren el-Chawa (Independent Researcher)
Masaki Nagata (Independent Researcher)
Norimasa Fujimoto (Doshisha Univeristy)
Chikako Ikehata (Doshisha University)
S. Jonathon O'Donnell (Aoyama Gakuin University)
Masahiro Shida (Post-Doctral Fellow, Japan Society for the promotion of Science)
Hiroshi Tone (Doshihsa University)
Rehab Abuhajiar (Dosihsha University)

【プログラム】 

9:30-9:40 OPENING
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Session 1  9:40-11:15
Title: Holy Times in Prayer
Chair: Gamal Abd elsamia Elshazly

9:40-10:00 Gamal Abd elsamia Elshazly - "Prayer in Judaism"
10:00-10:20 Hiroshi Tone - "Christ Child as Holy Times in Islam - On the reception of Paidika in the Koran -“
10:20-10:40 Caren El-Chawa - "Holy Time in the Qur’an"
10:40-11:00 Sik-ping Choi - "The Holy Time of Boaz - Meeting God in Solitude"
11:00-11:15 Q&A
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Session2 11:15-12:50
Title: Prayer in the Holy Day
Chair: Naglaa Rafat Salem

11:15-11:35  Naglaa Rafat Salem - "Sabbath in Judaism”
11:35-11:55  Abdulla Galadari - "Qur’anic Concept of “Waqt”"
11:55-12:15  Chikako Ikehata - "Transnational Faith: Early Japanese Free Methodists"
12:15-12:35  Mohamed Ahmed Saleh - "Using the Pesah rituals in achieving the Palestinian-Israeli rapprochement, a study in "Rachel and Ezekiel" novel by Almog Behar”
12:35-12:50 Q&A
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12:50-13:50  Lunch Break
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Session3 13:50-15:25
Title: Holy Times as Festival
Chair: Mohamed Hawary

13:50-14:10  Mohamed Hawary - "Yom Kippur - Day of Atonement in Judaism "
14:10-14:30  Masahiro Shida - "Beyond the Age of the Torah: Nahmanides (1194-1270) and Two Polemical Contexts"
14:30-14:50  Masaki Nagata - "Islamic Rituals in Holy Times"
14:50-15:10  S. Jonathon O’Donnell - "Overcoming Jezebel: The 2016 U.S. Election as Sacred Time in American Neo-Charismatic Evangelicalism"
15:10-15:25 Q&A
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Session4 15:25-17:00
Title: Holy Times in the Religious Calendar
Chair: Etsuko Katsumata

15:25-15:45 Etsuko Katsumata - "Interactions among Three Monotheistic Religions through Calendars"
15:45-16:05 Rehab Abuhajiar - "Autonomy and Biomedical Ethics in Islamic Medical Practice: Comparative Case Studies of Jordan and Turkey"
16:05-16:25 Norimasa Fujimoto - "The Problem of the Interreligious Praying in the Grief care"
16:25-16:45 Mohamed Fawzy Deif - "Fasting time in Judaism and Islam"

16:45-17:00 Q&A
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17:00-17:10 CLOSING

英語発表、通訳なし。
一般の方も来場可。事前申込み不要。

京都ユダヤ思想学会創立10周年記念東京大会

京都ユダヤ思想学会創立10周年記念・東京大会

12月2日(土)・3日(日)
慶應義塾大学日吉キャンパス・来往
https://www.keio.ac.jp/ja/maps/hiyoshi.html

①記念シンポジウム「いま倫理(エティカ)とはなにか スピノザを考える」
12月2日(土)13:00- 来往舎・シンポジウムスペース

13:00-13:10 開会挨拶 勝村弘也(京都ユダヤ思想学会前会長・神戸松蔭女子学院大学)
13:10-13:20 司会趣旨説明 藤岡俊博(滋賀大学)
13:20-14:00 朝倉友海(神戸市外国語大学)「スピノザ・ヘーゲル関係再考 数理思想的観点から」
14:00-14:40 手島勲矢(日本学術会議連携会員)「名前の思想について スピノザとヘブライ語文法の考察」
14:40-14:50 休憩
14:50-15:30 國分功一郎(高崎経済大学)「スピノザにおける〈永遠であること〉の感覚と経験について」
15:30-16:10 合田正人(京都ユダヤ思想学会会長・明治大学)「論争のなかのスピノザ ベールからレヴィナス」
16:10-16:20 休憩
16:20-17:20 全体討議
17:20-17:30 閉会挨拶 渡名喜庸哲(慶應義塾大学)

②ワークショップ「ユダヤ思想と現代思想」
12月3日(日)10:30-12:05/13:00-14:30 来往舎・大会議室

10:30-10:35    司会挨拶 小野文生(同志社大学)
10:35-11:20  藤岡俊博(滋賀大学)「レヴィナスとロレンス 異教的超越」(質疑含む)
11:20-12:05  馬場智一(長野県短期大学)「コーヘンとマイモニデス」(質疑含む)
12:05-13:00  休憩 
13:00-13:45  丸山空大(東京外国語大学)「現代ユダヤ思想における律法 ローゼンツヴァイクとヘシェル」(質疑含む) 
13:45-14:30  佐藤香織(神奈川大学)「ローゼンツヴァイクとレヴィナス 聖書を「読むこと」と「対話」」(質疑含む)

③菅野賢治氏『フランス・ユダヤの歴史』合評会
15:00- 来往舎・大会議室

15:00-15:05   司会挨拶   後藤正英(佐賀大学)
15:05-15:15   自著紹介   菅野賢治(東京理科大学)
15:15-15:50   コメント1 渡名喜庸哲(慶應義塾大学)
15:50-16:25   コメント2 伊藤玄吾(同志社大学)
16:25-17:00   コメント3 臼杵陽(日本女子大学)
17:00-17:30   質疑応答



2017年11月2日木曜日

ユダヤ教の事典・データベース(Ver.1)

ユダヤ教 

近年、良質なユダヤ教の入門書が、しかも翻訳書ではなく国内のユダヤ教研究の第一人者による書籍があいついで出版されている。これらの日本語書籍の最大の特徴は、日本におけるユダヤ教理解の現状と問題点を著者自身がよく認識していることである。用語解説や参考文献も充実しており、調べ物をするうえでも重宝する。ユダヤ教入門の優れた翻訳書もたくさんあるが、ここでは割愛する。

市川裕『宗教の世界史7 ユダヤ教の歴史』(山川出版社、2009)
ユダヤ教の歴史を概観した概説書。「ユダヤ教の歴史」というテーマの書籍はこれまでもあったが、聖書時代の「古代イスラエルの宗教」に記述の多くが割かれていた従来の傾向とは明らかに一線を画し、エルサレム第二神殿崩壊後の「ラビ・ユダヤ教」の歴史(中世および近現代)の記述を中心とする。巻末の付録が充実している点も魅力。

勝又悦子・勝又直也『生きるユダヤ教 カタチにならないものの強さ』(教文館、2016)
ユダヤ教の宗教的な特徴や重要な人物についての説明を主眼とし、実際の生活の諸相に迫ることをテーマとする。巻末には日本語で読める主要なユダヤ教関連の文献が列挙されている。

山本伸一『総説カバラー ユダヤ神秘主義の真相と歴史』(原書房、2015)
ユダヤ教の神秘主義(カバラー)についての概説書。テーマは限定的だが、カバラーをユダヤ教の枠にとらわれない広がりを持った現象として描いており、現代のカバラーについても言及している。巻末にユダヤ教の用語解説がついている。



事典
翻訳書も含めて、日本語で読める事典はあるが、『岩波キリスト教辞典』や『岩波イスラーム辞典』に比肩するような、包括的で参照しやすいユダヤ教事典はまだない。『(岩波?)ユダヤ教辞典』を作ることは、日本のユダヤ教研究者が共有すべき使命である。
以下、英語の代表的な事典を挙げる。

Encyclopaedia Judaica, Second Edition 
(22 vols., Macmillan Reference, 2006)
一般にEJと略される、ユダヤ教研究の最も重要な事典。現在は第二版(基本的には初版への加筆だが、記述が訂正されている箇所も)。

The Oxford Dictionary of the Jewish Religion
(Oxford U.P., 1997、2011)
一冊でまとめられたポピュラーなユダヤ教事典。EJでは情報が多すぎる場合にはこちらがおすすめ。

Jewish Encyclopedia
(KTAV Pub. House, 1906)
http://www.jewishencyclopedia.com/
オンラインで全文無料公開されているので便利(書籍媒体の方には挿絵や図版あり)。ユダヤ教関連のWikipediaに転載されているケースもある。

The Encyclopaedia of Judaism, Second Edition
(4 vols., Brill, 2005)
さまざまなテーマの論考を集めたタイプの事典。例を挙げると「Astrology and Ancient Judaism」や「Orthodox Judaism」などの項目が並ぶ。特定のテーマについて論文を書くときには特に重宝する。

(注記)
*ヘブライ文字をローマ・アルファベットに翻字するとき、「Johanan」と「Yohanan」のように、表記方法が異なるケースが多々ある。目当ての用語が見つからない場合は、お手数ですが索引を見てください。
*日本語表記も一定ではない。「カバラー/カバラ/カッバーラー(やや古)」など、カナ表記も揺れがある。日本ユダヤ学会のHPではカナ表記について標準表記方法が提案されているが、これは表記の統一を義務づけるものではない(http://www.jewishstudiesjp.org/hebrew.html)。カタカナを使うのか訳語を使うのか(「トーラー」/「律法」)、どの訳語が適切なのか、という問題は残されており、やはり『ユダヤ教辞典』の企画と完成が望まれる!


データベース
ユダヤ教研究では研究上のデータベースや資料のオンライン化が進んでいる。ここでは特にポピュラーで使いやすいものを挙げていきたい。

Rambi
http://aleph.nli.org.il/F?func=find-b-0&local_base=rmb01&con_lng=eng
(上は英語ページ)
ユダヤ教研究の論文検索エンジン。ヘブライ語と英語で検索可能。

Merhav
http://web.nli.org.il/sites/NLI/English/Pages/default.aspx
(上は英語ページ)
イスラエル国立図書館(The National Library of Israel)の検索エンジン。

The Responsa Project
バル・イラン大学(イスラエル)企画のユダヤ文献データベース(有料)。オンライン版とUSB版がある。

Sefaria
https://www.sefaria.org/?home
ヘブライ語聖書、ラビ文学をはじめさまざまなユダヤ教のテクストが読めるオンラインデータベース(無料)。すべてではないが英訳つき。アプリもある。

Ktiv
http://web.nli.org.il/sites/nlis/en/manuscript
(上は英語ページ)
2017年に開始されたばかりのイスラエル国立図書館の写本データベースで、ユダヤ教研究者のあいだで話題になっている。デジタル化されたさまざまな写本をオンラインで閲覧することができる。

HebrewBooks.org
http://www.hebrewbooks.org/
ニューヨークのSociety for the Preservation of Hebrew Booksが運営するサイト。印刷版の膨大なヘブライ語文献をPDFでダウンロードすることができる。ヴィルナ版バビロニア・タルムードも閲覧、ダウンロードが可能。すべて無料。

The Bezalel Narkiss Index of Jewish Art
http://cja.huji.ac.il/browser.php
ヘブライ大学(イスラエル)のThe Center for Jewish Artが運営するユダヤ美術の最大のオンラインアーカイブ(無料)。古代から現代までのさまざまなユダヤ教美術や写本を閲覧することができる。

ヘブライ語の辞書・事典(Ver.1)

ヘブライ語

ヘブライ語は歴史的な時代区分に照らして主に四つに分類される。
聖書ヘブライ語Biblical Hebrew (やや広義の用語としてClassical Hebrew)
ラビヘブライ語Rabbinic Hebrew(Mishnaic Hebrew)
中世ヘブライ語Medieval Hebrew
現代ヘブライ語Modern Hebrew
この項目では、主にタルムードなどのアラム語(Arc)を読むための辞書の紹介も期待されていると思われるので、勝手ながらそれも含めることにする。他のユダヤ系の言語(ユダヤ・アラビア語、ユダヤ・スペイン語、イディッシュ語など)については含めない。
辞書の言語については、ヘブライ語―日本語(Heb-Jap)、ヘブライ語―英語(Heb-Eng)、ヘブライ語―ヘブライ語(Heb-Heb)に限定する。本稿はヘブライ語辞書を網羅することを目的とするものではなく、入手しやすく、現在広く使われている辞書を紹介するものである。

事典
Encyclopedia of Hebrew Language and Linguistics
G. Khan ed., Brill, 2013、宗教学研究室所蔵
全4巻、850以上の項目からなるヘブライ語についての言語学の事典。オンライン版もある。

参考となる論文
Tsvi Sadan, “The Lexicography of Hebrew,” in International Handbook of Modern Lexis and Lexicography (P. Hanks & G.M. de Schryver eds. Springer, 2017)
----, “Hebrew,” in Oxford Bibliographies in Jewish Studies
 (http://www.oxfordbibliographies.com/obo/page/jewish-studies)



辞書

ヘブライ語全般
מילון אבן שושן (Even-Shoshan Dictionary)
M. Azar ed., New Dictionary, 2013
Heb-Heb. 全6巻(版によって巻数変動あり)。Milon Even-Shoshan ha-Merkazという一巻本の形態もある。

Ma’agarim (מאגרים)
Heb-Heb. イスラエルのAcademy of the Hebrew Languageが運営するオンライン・コンコーダンス。第二神殿時代のヘブライ語、ラビヘブライ語、中世ヘブライ語の文献を広く網羅している。
http://maagarim.hebrew-academy.org.il/Pages/PMain.aspx


聖書ヘブライ語
聖書ヘブライ語については、歴史的に権威のある英語の辞書がふたつあり、それらを使うのがよい。また、聖書以外の当時のヘブライ語文献の読解に使える本格的な辞書もある。

A Hebrew and English Lexicon of the Old Testament: With an Appendix Containing the Biblical Aramaic
F. Brown, S.R. Driver & C.A. Briggs, , Clarendon, 1907
Heb-Eng. 三名の著者の名前の頭文字を取って、通称BDBと呼ばれる古典的な聖書ヘブライ語辞典。いまも最もポピュラーに使われており、聖書テクストを読むための辞書として最初に勧めたい。

The Hebrew and Aramaic Lexicon of the Old Testament
L. Kohler & W. Baumgartner, Brill, 1994-2000
Heb-Eng. 全5巻。現在入手可能な聖書ヘブライ語辞典のなかで最も権威のあるもの。

A Concise of Hebrew and Aramaic Lexicon of the Old Testament
W.L. Holladay ed., Brill, 1988
Heb-Eng. 上のレキシコンの簡潔版。

『旧約聖書ヘブル語大辞典』
名尾耕作、聖文舎、1982
Heb-Jap. 聖書新改訳の翻訳主事による日本初のヘブライ語辞書。さまざまな動詞の活用形や前置詞付の名詞のかたちで調べることができる。ただし、そのせいで見出し語が多すぎて、訳語が少なく、説明もないという問題点もある。

The Dictionary of Classical Hebrew
D.J.A. Clines ed., Sheffield Phoenix, 1993-2011
Heb-Eng. 全8巻。聖書ヘブライ語Biblical Hebrewに限定されない「古典ヘブライ語Classical Hebrew」の包括的な辞書。死海写本をはじめとする、第二神殿時代のヘブライ語を網羅する。

קונקורדנציה חדשה לתורה נביאים וכתובים (A New Concordance of the Bible)
A. Even-Shoshan ed., Kiryat Sefer, 1984
Heb-Heb. ヘブライ語聖書の現代ヘブライ語コンコーダンス。


ラビヘブライ語、ラビ文学
ラビヘブライ語の包括的な辞書はいまだに完成していない。ミシュナはヘブライ語だが、タルムードやその他のラビ文献にはアラム語も多く使われている。ここでは、これらのラビ・ユダヤ教の文学を読むための辞書を紹介する。

ספר מלים Dictionary of the Targumim, Talmud Babli, Yerushalmi and Midrashic Literature
M. Jastrow ed., Judaica Press, 1971
Heb (Arc)-Eng. 聖書アラム語(タルグム)、タルムード、ミドラシュ文学を読むための古典的な辞書。2巻本や1巻本など、いくつかの形態がある。

A Dictionary of Jewish Babylonian Aramaic
A Dictionary of Jewish Palestinian Aramaic, Second Edition
M. Sokoloff ed., Bar-Ilan U.P. & The John Hopkins U.P., 2002
Arc-Eng. タルムードをはじめとするラビ文学の包括的なアラム語辞書。バビロニアのアラム語とパレスチナのアラム語に分かれている。

Ariel’s Practical Guide to the Talmud (The Practical Talmud Dictionary and Grammar for Gemara)
Y. Frank ed., Ariel United Israel Institute, 1995
Heb (Arc)-Eng. タルムードのテクニカルタームについての辞書とタルムード・テクストの文法書がセットになった1冊。タルムードを読むときに重宝する。それぞれが個別に出版されている形態もある。

קובץ ראשי תיבות וקיצורים לתלמודים למדרשים למפרשים
A.D. Melamed ed., Sifryati, 1991
Heb-Heb. ラビ文学に見られる短縮表現(ヘブライ文字の頭文字をとってつなげた表現。אם כן=א"כなど)についての辞書。短縮された表現が一覧表になっており、元の語句が表記されている。

中世ヘブライ語
時代的にも地域的にもきわめて広大な中世ヘブライ語の包括的な辞書はない。Even-Shoshan DictionaryMa’agarim、それぞれ時代の異なるヘブライ語の辞書で対応することになる。


現代ヘブライ語
たんに単語の意味を調べたい場合には一般辞書を、現代ヘブライ語の学習を進めたい場合には学習辞書を使うことをおすすめする。

Oxford English-Hebrew Hebrew-English Dictionary
Y. Levi ed., Kernerman and Lonnie Kahn, 1995
 Heb-Eng, Eng-Heb. ヘブライ語―英語の最もポピュラーな辞書。

רב-מילון: מילון דידקטי דו-לשוני Multi Dictionary: Bilingual Learners Dictionary
L. Weinbach & E. Lauden eds., AD, 2006
Heb-Heb-Eng, Eng-Heb. 最もポピュラーなヘブライ語英語学習辞書。ヘブライ語の単語が現代ヘブライ語で説明され、対応する英単語もついている。会話表現一覧や動詞の活用変化表など、ヘブライ語学習のための付録も充実している。

『現代ヘブライ語辞典』
キリスト聖書塾、1984、2006、宗教学研究室所蔵
Heb-Jap. イスラエルでヘブライ語を学ぶ日本人留学生による手作りのポケット辞典を前身とし、17,000語におよぶ辞書として完成。文法やさまざまな専門用語をまとめた付録も充実しており、学習辞書としても非常に使いやすい。

『日本語‐ヘブライ語小辞典』(1993)
『現代 日本語‐ヘブライ語辞典』(2013)
ミルトス・ヘブライ文化研究所
日本語から現代ヘブライ語を引くための辞書。日本語の見出し語はローマ字転写されたさいのアルファベット順となっている。1993年の『小辞典』が初版で、2013年に改訂版が出た。

מילון עברי-אנגלי שלם The Complete Hebrew-English Dictionary
R. Alcalay, 2 vols., Massada, 1990
Heb-Eng. ヘブライ語-英語の辞書としてはいまもなお最も包括的な辞書。

רב מילים: המילון השלם לעברית החדשה (Rav-Milim: A Conprehensive Dictionary of Modern Hebrew)
Y. Choueka ed., Center of Educational Technology, 1997
Heb-Heb. 全6巻。現代ヘブライ語の最も包括的な辞書。

他、オンラインの現代ヘブライ語辞書には以下のようなものがある。
Morfix
http://www.morfix.co.il/ (ヘブライ語トップページ)
http://www.morfix.co.il/en/ (英語トップページ)
Heb-Eng.

מילון ספיר (Sapir Dictionary)
http://www.milononline.net/
Heb-Heb. 同名の冊子版辞書のオンライン版。


文法書
学習用のテキストブックも含めて、ポピュラーなヘブライ語の文法書をいくつか挙げておく。

山田恵子『ニューエクスプレス 古典ヘブライ語』(白水社、2013)
山田恵子『ニューエクスプレス 現代ヘブライ語』(白水社、2014)
CD付きの初学者向けのテキストブック。(調査したことはないが)おそらく最も広く使われているもののひとつと思われる。「古典ヘブライ語」とあるが、ほとんど聖書ヘブライ語のみを扱っている(最後の章で聖書時代に書かれたヘブライ語の碑文が登場)。それぞれ全20課の構成で、各課で順々に文法が説明されていく形式。簡潔にまとめられており、入門書として十分な内容になっている

片山徹『旧約聖書ヘブライ語入門』(キリスト教夜間講座出版部、1972)
筆者が学部生の頃にヘブライ語初級の授業で使用した文法書。手書き(!)の様式で味わいがあり、文法説明も簡潔でわかりやすい。現在ではやや入手しづらい。

キリスト聖書塾『ヘブライ語入門』(日本ヘブライ文化協会、改訂版、2004)
日本語の『現代ヘブライ語辞典』をつくったキリスト聖書塾による本格的な文法書。文法説明が体系的に構成されている。全3部からなり、第1部では発音に重点が置かれている点も特徴的といえる。第2部は「現代ヘブライ語」、第3部は「聖書ヘブライ語」を扱う。

2017年10月18日水曜日

Adina Hoffman & Peter Cole講演会

科研費助成研究(基盤A)
「『ユダヤ文献』の構成の領域横断的研究」
特別講演会のご案内

 この度、京都大学・勝又研究室で進めている研究プロジェクト「『ユダヤ文献』の構成の領域横断的研究」の一環として、同志社大学のAda Tagger Cohen教授のご協力のもと、詩人・中世ユダヤ詩の英訳者としてご活躍されているPeter Cole氏、エルサレムを主題とした伝記作家として著名な Adina Hoffman氏ご夫妻をお招きし、京都・東京にて連続講演を開催致します。
 京都講演(11/1: 於同志社大学)においては、Cole氏のご専門である中世スペイン・ユダヤ詩という文学ジャンルの誕生について、東京講演(11/3: 於神保町・学士会館)においては、Cole氏、Hoffman氏のお二人に、2012年にアメリカ図書館協会・ユダヤ文学賞を受賞された共著、「Sacred Trash: Lost and Found World of the Cairo Geniza (2011: Schocken/Nextbook)」をベースとしたゲニザ研究史についてお話しいただきます。
 詳細は以下をご覧ください。皆様のお越しをお待ちしております。
(主催:京都大学大学院 人間・環境学研究科 向井 直己)

1.京都講演 (要事前申込)
講師:Peter Cole氏
標題:"The emergence of Hebrew poetry in Medieval Spain"

概要:本講演においては、詩人・翻訳者・学者として著名なPeter Cole博士をお招きし、中世ムスリム・スペインのヘブライ語詩の「黄金期」についてご紹介いただく予定である。10世紀以降、アンダルシアのユダヤ詩人たちは宗教的・世俗的な詩を新しい形式で書き始め、ヘブライ語の長い歴史における最も偉大な詩の幾つかを創出した。この講義においては、この詩の起原と発展について学び、また幾つかの詩を読みながら、この魅力的な分野の紹介としたい。
(※配布資料の準備のため、事前申し込みをお願いいたします)

日時:2017年11月1日 13:10-14:40 (※ヘブライ語の授業内での講演です)
会場:同志社大学 今出川キャンパス 神学館 G31教室
     〒602-8580 京都市上京区今出川通烏丸東入
     ・地下鉄烏丸線:「今出川」駅から徒歩1分
     ・京阪電車 :「出町柳」駅から徒歩15分
     ・バス停 :烏丸今出川」から徒歩1分
MAP:   http://www.doshisha.ac.jp/information/campus/access/imadegawa.html

2.東京講演 (事前申込不要)
講師:Peter Cole氏・Adina Hoffman氏
標題:Sacred Trash: The Lost and Found World of the Cairo Geniza

概要:カイロ・ゲニザは、ユダヤ人の書いたテクストのもっとも貴重な保管庫である――死海文書以上に、とさえ言えるかもしれない――とは、多くの人々が認めるところである。アメリカで数々の賞を受賞した著作家、Peter Cole、Adina Hoffman両氏により、この驚くべきタイム・カプセルの内容をご紹介いただき、同時にその発見の歴史についても学ぶこととしたい。かつて繁栄を誇った、驚くほど多様な中世地中海のユダヤ文化を俯瞰して頂きつつ、どのような文献がそれぞれの文化的な価値観を示しているのか、またその理由についてお話しいただく。
本講演では、ゲニザ一般の解説からはじめ、(通常ゲニザに収められているような)神聖なテクストのみならず、あらゆる種類の書き物が収められているというカイロ・ゲニザに固有の特徴についてお話しいただく予定である。中世地中海社会の交差点に立つエジプトの共同体が、およそ千年にわたって保管してきたゲニザには、聖なるものも俗なるものも、儀礼的なものも、文学的なものも、日常生活に関わるものも含まれている。さらに、ルーマニア出身のカリスマ的ラビ、ソロモン・シェヒターほかによるゲニザ発見の初期をとりまく文化的状況、テクストにまつわる問題を概観して頂いたうえで、個別的な発見と、(しばしば無視されてきた)資料を手にした研究者らの価値づけのあり方に焦点をしぼりこんでいく。
 長年失われてきた黙示的文書(コヘレト書)、儀礼詩(ビザンティン及びパレスティナ)、業務上の、あるいは個人間の文通記録、婚姻支度の目録、諸種の規定等が論点となる。

日時:2017年11月3日(金・祝) 13:30-16:30
会場:学士会館 307号室
    〒101-8459 東京都千代田区神田錦町3-28
    ・都営三田線/都営新宿線/東京メトロ半蔵門線
「神保町」駅下車A9出口から徒歩1分
    ・東京メトロ東西線「竹橋」駅下車3a出口から徒歩5分
    ・JR中央線/総武線「御茶ノ水」駅下車御茶ノ水橋口から徒歩15分
    MAP

MAP:https://www.gakushikaikan.co.jp/access/

【講師紹介】
■Peter Cole氏
 1957年、ニュージャージー州Paterson生まれる。5冊の詩集を刊行するほか、中世から近代にいたるヘブライ語・アラビア語の翻訳を多数手がける。著書に、Hymns & Qualms: New and Selected Poems and Translations, The Dream of the Poem: Hebrew Poetry from Muslim and Christian Spain (950-1492), The Poetry of Kabbalah: Mystical Verse from the Jewish Tradition等。アメリカ人文学アカデミー文学賞、グッゲンハイム記念財団奨励金、Jewish National Book Award、The PEN翻訳賞, アメリカ図書館協会・ユダヤ文学賞(Adina Hoffmanとの共著Sacred Trash: The Lost and Found World of the Cairo Genizaにて)、マッカーサー奨励金等数々の賞を受賞。イェール大学にて、ユダヤ学・現代文学を講じる。エルサレム及びニューヘイヴン在住。「傑出した作家」(The Nation紙評)、「現代のもっとも重要な詩人のひとり」(ハロルド・ブルーム評)。
 ホームページ:www.ibiseditions.com/petercole

■Adina Hoffman氏
 エッセイスト・伝記作家。中東を題材に、独特の視座から当地の土地柄・人々・文化の見過ごされてきた側面に光をあててきた。著書に House of Windows: Portraits from a Jerusalem Neighborhood, My Happiness Bears No Relation to Happiness: A Poet’s Life in the Palestinian Century, Till We Have Built Jerusalem: Architects of a New City等。Peter Coleとの共著、Sacred Trash: The Lost and Found World of the Cairo Genizaにて、アメリカ図書館協会ユダヤ文学賞(ブロディー・メダル)を受賞。Wesleyan大学、Middlebury College、ニューヨーク大学客員教授、イェール大学・ホイットニー人文学センター研究員。イギリス、Jewish Quarterly紙ウィンゲート賞、グッゲンハイム記念財団奨励金を受賞したほか、Windham Campbell文学賞の最初の受賞者のひとりでもある。エルサレム及びニューヘイヴン在住。
 ホームページ:www.ibiseditions.com/adinahoffman

Adina Hoffman & Peter Cole
Sacred Trash: The Lost and Found World of the Cairo Geniza
(New York: Nextbook, Schocken, 2011)




2017年10月11日水曜日

日本オリエント学会公開講演会「唯一神教における法と伝承」

日本オリエント学会
第318回公開講演会

「唯一神教における法と伝承」
2017年10月28日(土)14:00-17:00
東京大学本郷キャンパス法文2号館1番大教室

市川裕(東京大学大学院人文社会系研究科・教授)
「ユダヤ教の法と伝承—タルムードはなにを議論しているのか—」

柳橋博之(東京大学大学院人文社会系研究科・教授)
「イスラーム法とハディース(預言者伝承)」


日本ユダヤ学会第14回学術大会

日本ユダヤ学会
第14回学術大会

プログラム

日時 10月28日(土) 14:00~17:30
会場 学習院女子大学 2号館237教室

14:00~14:30
藤田教子(東京大学大学院人文社会系欧米系文化研究専攻博士課程)
「フランツ・カフカの〈もう一人のアブラハム〉」

「僕はもう一人のアブラハムを考えることができるように思う」。ジャック・デリダは自らに「ユダヤ人であること」を問う考察をこの一文から始める。それはフランツ・カフカが友人へ送った手紙からの抜粋であった。アブラハムに関する言説は両者を神とのつながりへと導く。しかし両者が念頭に置いているのは神のみではない。両者にとって必然的に現れる「もう一人のアブラハム」とは何か。デリダと比較しつつ、カフカのアブラハムを再考したい。(司会:北彰)

14:30-14:45  質疑応答

14:45~15:15 
牧野素子(桜美林大学、外務省研修所)
「ウンベルト・エーコ『プラハの墓地』にみる問題提起とその背景」

イタリアの記号学者で作家の ウンベルト・エーコは、2010年に第6作目となる小説『プラハの墓地』(2010年)を出版した。その中核にあるのは20世紀最大のユダヤ人虐殺の原因を作ったと云われる偽書『シオン賢者の議定書』(以下『議定書』とする)が成立する過程である。『議定書』に関しては、エーコは第2作目の小説『フーコーの振り子』(1988年)や連載している週刊誌のコラム、ハーヴァード大学での連続講義などでも言及してきた。そこには近現代史に対するエーコの問題提起がある。その問題と、エーコが執拗にこの問題を追い続けてきた背景について明らかにする。(司会:母袋夏生)

15:15-15:30 質疑応答

15:30~15:50 休憩

15:50~16:20 
石黑安里(同志社大学研究開発推進機構及び神学部特別任用助教)
「アメリカにおける改革派ユダヤ教の形成とシオニズムへの接近:カウフマン・コーラーからステファン・S・ワイズまで」

本発表は、アメリカにおける改革派ユダヤ教の形成過程を通して、改革派ユダヤ教がシオニズムへと接近していった背景を考察する。具体的には、カウフマン・コーラー(Kaufmann Kohler, 1843-1926)とステファン・S・ワイズ(Stephen Samuel Wise, 1874-1949)に焦点を当てることで、ユダヤ教改革派の変容を概観し、ユダヤ教改革派によるシオニズム運動への接近が、ユダヤ教のアメリカ化の一つの結果であったことを明らかにする。(司会:武井彩佳)

16:20-16:35  質疑応答

16:35~17:05 
二井彬緒(東京大学大学院総合文化研究科博士課程)
「H・アーレントのバイナショナリズムと〈住まい〉の思想的関係性」

近年、現代思想においてバイナショナリズムが再評価の傾向にある。ここで注目すべきは、近年のバイナショナリズム再評価は必ずハンナ・アーレントの思想がその下敷きとして、言及される点である。本発表では、1940 年代後半のシオニズム批判の論考を中心に、アーレントのバイナショナリズム論によって実現される空間(国家という「住まい」)の思想を体系的に考察する。その上で、彼女のバイナショナリズムが目指した空間はどのように思考されていたか、また、バイナショナリズムが持つ思想的可能性を論じる。(司会:大内宏一)

17:05-17:20 質疑応答

17:50~20:00 懇親会 

2017年8月5日土曜日

Ktiv : The International Collection of Digitized Hebrew Manuscripts

Ktiv
イスラエル国立図書館National Library of Israelによるヘブライ語写本のデジタル化事業。
オンラインで閲覧することができる。
今後も世界中の図書館との協力により、写本のデジタル化とアップロードが進められる。

公式ホームページ
http://web.nli.org.il/sites/nlis/en/manuscript

本事業についてのハアレツ紙の記事
http://www.haaretz.com/israel-news/.premium-1.804845


2017年5月31日水曜日

京都ユダヤ思想学会第10回学術大会

京都ユダヤ思想学会
第10回学術大会・公開シンポジウム

2017年6月24日(土)
同志社大学烏丸キャンパス 志高館SK112教室

第10回学術大会個人発表
9:30-9:40 
吉野斉志(京都大学博士課程)
研究発表①「ベルクソンとアインシュタイン ―哲学者と物理学者、世紀の論争を読み直す―」
司会:馬場智一(長野県短期大学助教)

10:10-10:50 
高野浩之(中央大学博士後期課程)
研究発表②「レヴィナス『全体性と無限』における「顔の彼方」のエロス論」
司会:馬場智一(長野県短期大学助教)

10:50-11:30 
菅野賢治(東京理科大学)
研究発表③「日本軍政下の上海にユダヤ絶滅計画は存在したか?」
司会:宮澤正典(同志社女子大学名誉教授) 

公開シンポジウム(13:00-17:00)
13:00-13:10 
伊藤玄吾(同志社大学/第10回学術大会シンポジウム企画者)
企画趣旨「ルネサンス・人文主義・宗教改革とユダヤ ―ルター「95ヶ条の論題」500周年―」
   
13:10-13:40
関哲行(流通経済大学)中世スペイン史
提題①「中近世イベリア半島におけるユダヤ人(マラーノ)の移動」

13:40-14:10 
根占献一(学習院女子大学)ルネサンス文化・思想史
提題②「ルネサンスにおけるユダヤ思想――その展開と特質」

14:10-14:40
村上みか(同志社大学)歴史神学、宗教改革史
提題③「ルターのユダヤ人理解―近年の研究における新しい視点より―」

14:40-14:50 
休憩

14:50-15:20 
手島勲矢(日本学術会議連携会員)ユダヤ教文献学
提題④「宗教改革とラビ聖書:16世紀ユダヤ文献学の意義」

15:20-15:50 
伊藤玄吾(同志社大学)ルネサンス文学・思想史
提題⑤「エラスムスからラブレーへと至る人文主義の一潮流とユダヤ」

15:50-15:55 
休憩

15:55-17:00 
質疑応答

17:10-18:00
総会

18:00
懇親会(芙蓉園)

■大会企画趣旨

「ルネサンス・人文主義・宗教改革とユダヤ -ルター「95カ条の論題」500周年-」
伊藤玄吾(同志社大学/第10回学術大会シンポジウム企画者)

2017年はルターの「95ヶ条の論題」から500周年ということで、関連する様々な催しかが各地で行われる。ルターに象徴される宗教改革というものが、その後のヨーロッパの宗教・ 思想・文化・政治・経済の歩みに決定的な影響を与えたことを考えれば、それは狭い意味 でのキリスト教史や教義史の次元においてだけでなく、その出発点である15世紀~16世 紀という時代の文脈においてより多次元的・批判的に捉えられることが必要であろう。一般にルネサンスという言葉で括られるこの時代は、大規模な人的移動に伴うダイナミックな知的交流の時代である。ヨーロッパの「東の防波堤」とされたビザンツ帝国の崩壊をきっかけにビザンツ知識人が西へと流れ、主にイタリアにおいてギリシア語古典文献の再発見と古典語研究ブームを惹き起こし、それが後に聖書テキストの批判的研究へと繋がっていったことはよく知られている。しかし、それに劣ることなく重要な出来事は、その半世紀後に西の「大地の果つる場所」であるイベリア半島から大量のユダヤ人が追放され、東へと流れていき、地中海沿岸地域において新たな共同体と知的活動の核を形成していったことであり、特にイタリアにおいて、学識のあるユダヤ人たちとキリスト教界の最も優れた学者たちの交流をきっかけにヘブライ語、聖書及び各種ユダヤ教文献研究の一大ブームが巻き起こり、ヨーロッパの新たな知的世界の形成に大きな影響を与えたことである。飽くなき好奇心を持ってユダヤの知と取り組んだキリスト教の学者たち、彼らの師であるユダヤ知識人たち、古典ギリシア・ラテンの伝統とユダヤの伝統の両方に通じた改宗ユダヤ人の学者たち、そして彼らの活動を支えた印刷業者たち(それはピコ・デッラ・ミランドラ、J.ロイヒリン、S.ミュンスター、レオ・ヘブラエウス、エリアス・レヴィタ、D.ボンベルクといった人々に象徴される)が織り成すダイナミックな知的交流を踏まえることで、人文主義や宗教改革が何であったのかをより本質的な形で考察することができるのではないだろうか。一方で私たちはこうした知的交流の限界にも目を向けないわけにはいかない。その交流がいかにダイナミックなものであり、知的世界における大きな衝撃であったとはいえ、それがユダヤ教に対する宗教的偏見を解消したわけではなかったし、ヨーロッパ世界におけるユダヤ人に対する様々な社会的差別と向き合い、その地位や境遇を具合的に改善することにつながったわけではない。ヴェネツィア・ゲットーの成立やイベリア半島において猛威を振るった異端審問も同時代の出来事であったことなどを改めて確認することに加え、ルターのあからさまに反ユダヤ的な言説や、さらには「人文主義の法王」や「ヨーロッパの教師」と呼ばれ、現代においてもヨーロッパの知的良心・寛容と統合のシンボルとされることの多いエラスムスがその著作の端々で漏らすユダヤ的なものへの根深い猜疑心とも向き合うことが必要である。ルネサンス期人文主義と宗教改革の思潮において様々な形で 論じられていった「人間」、「個」、「全体」、「無限」、さらには「尊厳」、「自由」、「寛容」、「友愛」などの問題にしても、それをあえて「ユダヤ」という視点から問い直す作業は、その後500年を経た21世紀に生きる私たちにとってもある種のアクチュアリティーを有するものであり、私たちの学会にふさわしいものであると考える。


個人研究発表
研究発表①「ベルクソンとアインシュタイン―哲学者と物理学者、世紀の論争を読み直す―」吉野斉志(京都大学博士課程)

ベルクソンの『持続と同時性』(1922年)はアインシュタインの相対性理論と対決した著作であり、刊行前に行われた二人の対論と併せて、時代を代表するユダヤ系の哲学者と物理学者の対決であった。しかしこの著作の議論はしばしばベルクソンの物理学に対する誤解を示すものと見なされており、同書はベルクソン著作集にも収録されなかった。
だがその結果として、実のところ『持続と同時性』でベルクソンが論じようとしていたことは何であったのか、そこに物理学的な誤解に回収されない価値ある哲学的議論があるのかどうかは、十分に論じられずにきた。
本発表は『持続と同時性』の哲学的意味をあらためて解明するため、まずは相対性理論を紹介したランジュヴァンの講演をベルクソンがつねに念頭に置いていることを確認した上で、その「砲弾への旅行」という思考実験(後に「双子のパラドックス」として知られることになる)を軸に、ベルクソンが何をどう理解しているかを読み解く。ここでは同時代の議論の文脈を明らかにすると同時に、必要ならば現代物理学からの知見も交えて、実証的にはどうなるかも併せて示す。これにより、もしベルクソンの理解に不適切な点があるとすれば、それは何に基づいているのかも明らかになるであろう。
ベルクソンの議論は、彼の言う「時間」を物理的パラメータだと見なす限り、実証的に支持されえないものを含む。また『持続と同時性』の「時間」は彼が他著作で論じた「純粋持続」に基礎を置いてはいるが、それと同一でもない。しかし彼が本当に論じているのは、たとえば異なる時計がそれぞれ異なる時間を刻むとして、それらを包摂する宇宙的時間について語りうる可能性なのである。この論点から見る時、ベルクソンの議論の少なくとも一部は哲学的に命脈を保つだけでなく、現代物理学を前にしても興味深いものを示すであろう。

研究発表②「レヴィナス『全体性と無限』における「顔の彼方」のエロス論」高野浩之(中央大学博士後期課程)

エマニュエル・レヴィナスの主著『全体性と無限』第四部「顔の彼方へ」で論じられる「エロスの現象学」は、如何なる意味で「顔の彼方」なのか。これが本報告のテーマである。従来、「繁殖性」が顔との関係では不可能であった死の克服を可能にするという点から、「顔の彼方」が論じられてきた。つまり、まず顔としての他者との出会いがあり、次に子を産出する「エロス」が顔を超える経験として提示されるというわけである。
本報告は,別の観点を提示して、「顔の彼方」を論じる。エロスの相関者としてレヴィナスが提示する「女性的なもの」のエロティックな美は、顔との関係に依拠してはじめて生起する。顔との関係を前提としつつ、その顔を否定することによって女性的なものの美が際立つ、この顔の否定という契機が、「顔の彼方」を説明するものと思われる。本報告は、『全体性と無限』を中心としたレヴィナスの記述を読解することによって、この点を証し立てるものである。
まず第一章では、他人との対話の場面を考察し、顔との関係の要点が整理される。次に第二章では、愛撫の経験を起点として、他者とのエロティックな関係の諸特徴が見出され、顔との関係とエロティックな他者関係の相異点が指摘される。そして第三章で、エロティックな他者関係が顔との関係を前提とするということの意味が考察される。
本報告の特徴は、エロティックな現象の生起そのものに顔との関係が含意されているという点を明確化する点にある。「顔の彼方」を説明するものは、『全体性と無限』のテキストの順番や私たちの経験の順番、顔との関係では不可能であった死の克服などに限られないと思われるのである。

研究発表③「日本軍政下の上海にユダヤ絶滅計画は存在したか?」菅野賢治(東京理科大学)

昨年、本研究の発表者が訪れたオーストラリアの「シドニー・ユダヤ博物館」の一般展示室には、1940年のリトアニアで、いわゆる「命のヴィザ」の発給により数多くのユダヤ難民を救った杉原千畝の写真と並び、やはり戦時期、中国の上海に滞在、滞留していた二万人規模のユダヤ系住民を独=日共同の絶滅政策から救った「義人」として、当時、上海総領事館員だった柴田貢(しばた・みつぎ)の写真が掲げられている(2016年8月現在)。時折、博物館を訪れる日本人観光客たちは、杉原の写真を既知として確認しながら、他方の柴田については、いかにも怪訝そうに、その肖像と解説を代わる代わる眺めている。 発表者は、かねてよりトケイヤー、シュオーツの『河豚計画』(原著1979年)をつうじて柴田の存在を知っていた。帰国後、上海を経由した元ユダヤ難民たちの回想録や、各言語の史家たちによる研究書を繙いてみると、その多くにおいて、たしかに1942年夏、上海には駐日ドイツ大使館付警察武官ヨーゼフ・マイジンガーの肝いりによるユダヤ絶滅計画が存在し、それを柴田領事館員がみずからの職位を投げ打って阻止した、という記述が受け継がれている。他方、この逸話の史実性に疑問を禁じ得ない書き手たちは、あくまでも伝承にすぎない、とした上で言及するか、あるいは当初からこの逸話には触れずに済ませるか、そのいずれかである。かくして、ヨーロッパにおけるユダヤ教徒・ユダヤ人の絶滅に関する研究が、日本語でも、年々、充実・発展の一途を辿るなか、日本軍政下の上海に同種の絶滅計画が存在したのか否か、という歴史の問いには、いまだ信頼に値する定説がない、というのが現状である。
本研究発表においては、戦後、時間の経緯のなかで時に相互に矛盾し合う証言を時系列の上で整理し直し、同時代の状況証拠にも依拠しながら、この種の絶滅計画の「不在」を結論づけるための準備作業に着手する。


公開シンポジウム

提題①「中近世イベリア半島におけるユダヤ人(マラーノ)の移動」関哲行(流通経済大学社会学部教授)

封建制社会の危機の時代にあたる14世紀末、ユダヤ人のイメージは大きく劣化し、ユダヤ人はイエスを殺害した「神殺しの民」、「悪魔サタンの手先」とされた。こうした「負のイメージ」と社会・経済的危機を背景に、1391年、スペインで民衆を主体とした大規模な反ユダヤ運動が勃発した。15世紀に入るとドミニコ会士ビセンテ・フェレールが、イベリア半島全域で威圧的なユダヤ人改宗運動を展開し、有力ユダヤ人を中心に多くのユダヤ人が改宗した。しかし王権と教会は改宗ユダヤ人(コンベルソ)に、組織的な教化策を実施せず、偽装改宗者(マラーノ)が続出した。そのため1449年トレードで、コンベルソへの不信の表明ともいうべき「判決法規」が制定され、彼らによる都市官職保有が禁じられた。
こうした歴史的前提の上にカトリック両王は、ローマ教皇の認可を得て1480年、最初の異端審問所を開設した。新たな異端審問制度は、コンベルソの「真の改宗」を目的とした、国家と教会の組織的対応を意味し、「旧キリスト教徒」民衆の強い支持を受けた。しかしこの異端審問制度をもってしても、巧妙な偽装改宗者を防止できず、コンベルソ問題の抜本的解決には至らなかった。そこでカトリック両王は1492年3月、ユダヤ人に4か月以内の改宗か追放かの二者択一を迫るユダヤ人追放令を発した。追放令により新たに数万人のユダヤ人が改宗する一方、7~10万人のユダヤ人が信仰を守ってスペインを離れた。
スペインを離れたユダヤ人は、ポルトガル、フランス、オスマン帝国、マグリブ諸都市に向かったが、1496年にポルトガルでユダヤ人追放令が出されると、同様に多くのユダヤ人が改宗を強制された。1506年にはポルトガルで大規模な反コンベルソ運動が発生したばかりか、スペインとポルトガルの異端審問所の取り締まり強化、「血の純潔規約」の多様な機関や社団への導入を前に、16世紀以降もイベリア半島の偽装改宗者の亡命が相次いだ。これらの偽装改宗者は一般に、信仰の自由と自治権を保障するユダヤ人共同体が組織され、親族ネットワークを活用できる都市に移住する傾向があった。メシア思想や終末論が浸透する中で、偽装改宗者の一部は、パレスティナ地方やアメリカ植民地にまで進出したが、本報告では、イサーク・アブラバーネル、グラシア・ナシ、ウリエル・ダ・コスタを例に、ユダヤ人(マラーノ)の移動の一端を探りたい。


提題②「ルネサンスにおけるユダヤ思想――その思想と特質」根占献一(学習院女子大学国際文化交流学部教授)

ヒューマニズム(人文主義)・アリストテレス主義・そしてプラトン主義の観点から、ルネサンス文化を形成する時代の思想を理解することは可能であろう。中世との比較から、あるいはイタリア・ルネサンスの特徴から以下の点が指摘できるであろう。ヒューマニズムはフマニタス研究(studia humanitatis)のことであり、それまでの論理学(弁証法)重視のリベラルアーツに代わり、ここではレトリック重視の学科構成となった。アリストテレス哲学は大学の形成とスコラ学との関わりが深いが、ここではイタリアの大学の学部構成の特徴、特にパドヴァ大学でのアリストテレス読解の特質が注目されなければならないであろう。最後に、プラトン主義は中世来のラテン的伝統に加えて、新たにフィレンツェのマルシリオ・フィチーノ(1433-1499)を軸とするプラトン・アカデミーの活動を考えておかなくてはならないだろう。
では、これらの思想的潮流とともに、ルネサンスにおけるユダヤ(ヘブライ)思想はどのように特徴づけられるであろうか。本発表では、時代を代表する思想家を介して同思想の特質を明らかにすべく特に以下の人物たちに注目したい。先述のプラトン・アカデミーの一翼を担う、「人間の尊厳」の哲学者ジョヴァンニ・ピーコ・デッラ・ミランドラ(1463-1494)、宗教改革前夜の第5ラテラノ公会議(1512-1517)時代の重要な神学者エジディオ・ダ・ヴィテルボ(1469-1532)、そして宗教改革とイエズス会の活動期が始まった頃のフランスの特異な思想家ギヨーム・ポステル(1510‐1581)など。また彼らとの関連でユダヤ人の思想家なども取り上げられることになろう。
日本の学界では、ここで対象となる「ルネサンス」が「中世のルネサンス」――カロリング・ルネサンスや12世紀ルネサンスなどのほか、多数に上る――と同比重で語られがちであるが、これは重大な時代誤認だろう。本シンポジウムの狙いにあるように、ここでのルネサンスは宗教改革と同時代の出来事であり、近代の始まりを成す画期と位置付けなくてはならないほどの重要性を持っているのである。しかもそれは大航海時代ともなり、日本に「新キリスト教徒」を見出すことは困難ではなかった。


提題③「ルターのユダヤ人理解―近年の研究における新しい視点より―」村上みか(同志社大学神学部教授)

20世紀のホロコースト以後、ルターのユダヤ人理解に注目が集まり、特に彼の晩年の著作『ユダヤ人とその偽りについて』(1543年)の問題性が指摘され、批判的な考察が行われた。その後、1960年代頃より、ルター神学の歴史研究が進展し、彼のユダヤ人理解についても、それを歴史的視点から捉えなおし、その意図をより正確に理解しようとする試みがなされてきた。本発題は、これらの新しい研究成果に基づきつつ、ルターのユダヤ人理解を歴史的文脈の中に位置づけ、読み解くことを試みる。すなわち、ルターのユダヤ人についての発言は彼の置かれていたその都度の状況に規定されており、16世紀前半の時代状況、彼の宗教改革的神学の形成、宗教改革運動の展開、そして新しい福音プロテス主義タント教会(領邦教会)の形成といった諸要素との関連において語られ、またその内容を変化させていった、その様子を明らかにしたいと思う。一つの例を挙げるならば、初期ルターのユダヤ人批判の根拠は彼の新しい神学「信仰義認論」にあり、ユダヤ人の律法重視のあり方が「行為義認」的であるとするものであった。しかし行為義認の批判はユダヤ人だけでなく、キリスト者にも向けられており、ローマ教会の修道士やボヘミア兄弟団も同じレベルで共に批判を受けたのである。
このように歴史的プロセスを視野に入れることにより、ルターの発言の神学的、教会政治的意図が明らかとなり、その限界についても改めて考察を行うことになるだろう。その際、彼のユダヤ人理解を規定し、ナチズム台頭の一因ともされた彼の教会論(いわゆる二王国論)についても紹介する。さらにルター以後のドイツ・ルター派教会とユダヤ人との関係についても言及し、ルターのユダヤ人理解がそのまま20世紀に至るまで継続的に維持されたわけではなかったことも指摘する。
このような考察を通じて、ルターの理解をより正確に歴史の中に位置付け、その影響力や問題性についても、これまでとは異なった仕方で理解することが可能になるだろう。


提題④「宗教改革とラビ聖書:16世紀ユダヤ文献学の意義」手島勲矢(日本学術会議連携会員)

宗教改革の「聖典のみ(Sola scriptura)」は、プロテスタントの旗印として有名になるが、そこでは一体何が起きているのか?その「聖典のみ」の主張の理解には、より大きな視点で、ユダヤ文献学の文脈から考える必要を思う。プロテスタントは、カトリックに対抗する方法として、ヘブライ語原典の重要性をもって、それまでの教会の翻訳聖書を批判するのだが、そのヘブライ語聖書の出発点となるラビ聖書初版は、「ルターの95箇条の論題」と同じ1517年にヴェネツィアで出版されている。従って、ラビ聖書の存在が宗教改革の動機になったのでもなければ、宗教改革のゆえにラビ聖書が誕生するわけでもないと考えるべきであり、直接的にはお互いは無関係の出来事であると思われる。しかし、その後の歴史を見ると、ローマ教会の権威にプロテストする人々にとってラビ聖書の存在は小さくないし、逆にユダヤのラビ聖書にヘブライ語聖書の原点を求める姿勢はプロテスタントにとって全く問題無しとは言えない。宗教改革は、17世紀に向けて、イタリアのヘブライ語文法や聖書を巡るルネサンスを自分のものにすることで西洋のインテレクチュアル・ヒストリーに確かなインパクトを持つようになるが、ヘブライ語聖書ルネサンスが宗教改革にどの様な思想的影響を及ぼしたのかについて、ラビ聖書を生み出したヴェネツィアのボムベルグ出版の活動を中心に起こった聖書の認識変化の意義を尋ねながら、宗教改革が否応なく受け継がざるを得ない当時の思想的問題のリアリズムについて少し考えてみたい。


提題⑤「エラスムスからラブレーへと至る人文主義の一潮流とユダヤ」伊藤玄吾(同志社大学グローバル地域文化学部准教授)

「人文主義の王者」や「ヨーロッパの教師」と呼ばれ、人文主義と宗教改革を結ぶ大きな役割を果たしたエラスムスは、現代に至るまでヨーロッパの知的良心、寛容と統合のシンボルとされている。それは現代のEUにおいて、学生・教員の国境を越えての相互交流を促進するプログラムが「エラスムス計画」と呼ばれていることにもよく見て取ることができる。
近年、エラスムスの地元であるオランダにおいて、その著作群における反ユダヤ的側面を扱う研究書や論文が現れて話題となったが、それらの問題提起の中にはエラスムス研究上の専門的な議論にとどまらず、彼が象徴するヨーロッパの「人文的教養」とそれに基礎を置く「知的良心」や「寛容」の内実を再検討しようとする試みも当然ながら含まれている。
本発表では、エラスムスをめぐるオランダでの最近の論争を出発点にして、エラスムス自身そして彼に続く人文主義者たちのうち、1)ヘブライ語そしてユダヤの知の世界に深い関心を持ち、2)宗教改革に共感しつつもその本流とは一定の距離を保ちながら多くの著作を残し、3)その後の世代の思想と文芸に少なからず影響を及ぼした人物としてジャック・ルフェーブル・デタープル、そしてフランソワ・ラブレーへと至る人文主義の一潮流を取りあげ、それをユダヤの知および同時代のユダヤ人たちとの関わりという観点から考察してみたい。エラスムスの諸著作におけるヘブライ語聖書、ユダヤ的知そして同時代のユダヤ人に対する言及内容の様々な問題点を、当時の文脈を考慮しつつ丁寧に検討していくことは重要であるが、同時にそこにとどまることなく、それらの問題点が、彼を師と仰ぐ一連の人文主義者の著作の中でいかに引き継がれ、修正され形を変えながら、人文主義的教養を基盤とするヨーロッパの知的な言説世界の構成要素となっていったのかを検討することも重要であろう。エラスムスの諸テキストを起点にし、さらにルフェーブル・デタープル『詩篇校合五篇』、『校訂聖パウロ書簡と注解』およびラブレー『第四之書』の分析を手がかりに考察を進めたい。

ポスターPDFなど、詳細は下記公式HPにて
https://sites.google.com/site/kyotojewish/

第65回宗教史研究会

宗教史学研究所 第65回研究会

2017 年 6 月 3 日(土) 13:00-18:00
東洋英和女学院大学大学院201教室

プログラム

13:00-14:30
発表1 比留間 亮平(東洋英和女学院大学非常勤講師)
「ルネサンスにおける魔術と占星術の対立:ピコ・デラ・ミランドラの『提題集』と『占
星術駁論』より」
<概要> イタリア・ルネサンス全盛期の 15 世紀末、若干 24 歳であった若き哲学者ピコ・
デラ・ミランドラは『提題集』において自身の野心的な企てを公表した。それはヘルメ
ス思想やカバラーなど、当時新たに「再発見」された魔術的学知を哲学と神学の全分野
に導入し、それを改革することで、真のキリスト教哲学・神学を構築しようという極め
て大胆かつ危険な試みであった。彼のこの意図は「魔術とカバラー以上にキリストの神
性を我々に確信させる学知はない」というテーゼに要約されている。しかしピコはこの
数年後、『占星術駁論』において学問としての占星術とそれに従事する占星術師たちを激
しく攻撃し、占星術を尊敬されるべき学問としての地位から追放すべきと主張した。歴
史的にもピコのこの批判はこの後数世紀にわたって続く占星術への科学的批判の最初の
一撃とみなされている。同じ人物が一方では魔術思想を高く評価し、しかし他方では占
星術を強く批判するなどということがなぜ生じたのであろうか。本発表では当時の占星
術の理論枠組みを簡単に確認した後、ピコの世界観における魔術と占星術の位置づけを
考察する。

14:40-16:10
発表2 津曲 真一(東洋英和女学院大学非常勤講師)
モノとしての仮面
<概要> 仮面に関する研究は長い歴史を持ち、宗教学でも様々な議論が展開されてきた
が、従来の仮面論を牽引してきたのは、そのペルソナ的側面、即ち人格や個性、社会的
役割、さらには近代的自我の同一性としての「仮面」を巡る論考であった。だが、この
場合の「仮面」は必ずしもモノとしての仮面とその着用を想定したものではない。人間
がモノとしての仮面を用いず、素顔のままで内的な変容を経験するという事態と、物理
的なもので顔を被覆することで新たな性質を帯びるという事態の間には乖離がある。
 モノとしての仮面を使用するとき、着用者は物質性を帯びた仮面に直接、身体をとお
して働きかけ、同時にその物質性に思考と行動を規定される。仮面はその特有の形態・
材質・質量・匂い、着用時の身体感覚などを通じて、着用者に直接働きかけるのである。
では、モノとしての仮面がその装着者に付与する宗教的な役割とは何か。本発表では人
間と物質の関係を整理したうえで、チベットの宗教伝統に於ける仮面の使用を事例とし
て取り上げ、仮面の物質性(Materiality)が着用者に与える影響について検討し、また仮
面着用者を観る人々の意識についても若干の考察を試みたい。

16:30-18:00
発表3 木村 武史(筑波大学准教授)
「ロボット・AIはいかなる意味で宗教学の研究対象になるのか?―テクノ・アニミズ
ムか人間観の更新か―」
<概要> ここ数年、次世代ロボット技術と AI の発展が注目を浴び、それとともにロボ
ットや AI が持つ哲学的・倫理的課題が国内でも取り上げられるようになってきた。例え
ば、最近では、国内でも次のような著作がある。久木田・神埼『ロボットからの倫理学
入門』(2017)、久保明教『ロボットの人類学』(2015)など。発表者はほぼ 10 年前の松村・山中編『神話と現代』(2007)に「ロボティックスの神話学とロボエシックスの萌芽」という小論を発表して以来、断続的にロボット・AI を宗教学の見地から取り上げ、主に海
外の学会で発表を行ってきた。最新の論文は”Robotics and AI in the sociology of religion: A human in imago roboticae” Social Compass vol. 64 (1) 2017: 6-22 である。本発表では、海外の研究者が日本のロボット研究に神道・アニミズムの影響を見てと
る論考や発表者の今までの研究を紹介しながら、現代社会におけるロボット技術や AI
が宗教学的にどのように議論が出来るのかを試論として取り上げてみたい。特に、神霊
と人間との間を媒介する「モノ・事象」という観点から、ロボット・AI という特殊なテ
クノロジーを見るとはどのように考えられるかと検討してみたい。

2017年5月21日日曜日

日本ユダヤ学会公開シンポジウム「現代イスラエルの課題」

日本ユダヤ学会公開シンポジウム
現代イスラエルの課題

日時 5月27日(土) 14:00-17:50
会場 学習院女子大学 2号館 237教室

概要: イスラエル建国から70年近くが経過し、イデオロギーとしてのシオニズムの行き詰まりや、入植地をめぐる宗教右派の拡大など、国の在り方をめぐる諸問題が指摘されて久しい。またトランプ政権誕生で、米国の中東政策に新たな展開の可能性が語られる中、アメリカのユダヤ人社会との関係はどのように変化してゆくのか。現代イスラエルが抱える課題を多方面からあぶりだす。

14:00-14:10 
開会のあいさつ:市川裕(東京大学大学院人文社会系研究科教授) 
趣旨説明:鶴見太郎(東京大学大学院総合文化研究科准教授)

14:10-14:50
「変容/偏在する『他者』イメージ:アラブ人、パレスチナ人、ムスリム」
金城美幸(日本学術振興会特別研究員RPD)

アラブ系住民が多数派であったパレスチナに建国された現代イスラエル。本報告では、イスラエル建国前後の支配的な歴史言説に着目し、「他者」としての先住者が「発見」されていく過程を論じる。「アラブ人」、「パレスチナ人」、「ムスリム」など、中東全体の政治構造の変化とともに生じたパレスチナの民衆たちの重層的アイデンティティとの距離を念頭に置きつつ、イスラエルの歴史言説を考察する。(質疑応答10分)

15:00-15:40 
「『現代イスラエル』の境界はどこに引くべきか――『入植地問題』研究とグリーンラインのイデオロギー」
今野泰三(中京大学国際教養学部准教授)

これまでの現代イスラエル研究では、1967年戦争とグリーンライン(1948年戦争停戦ライン)を時間的・地理的・政治的・経済的な境界線と見なすことが当然視され、「入植地問題」もそれを前提として議論されてきた。しかし近年では、グリーンラインを越えた「占領地」と「ユダヤ人入植地」のみを問題と捉える見方に対して多くの批判が出されている。本発表では、そうした批判を紹介し、「パレスチナ/イスラエル地域研究」の方向性を展望する。(質疑応答10分)

15:50-16:10 休憩

16:10-16:50 
「米国ユダヤ社会で拡大する対イスラエル批判:二つのユダヤ社会は違う方向に歩んでいるのか」
立山良司(防衛大学校名誉教授、日本エネルギー経済研究所客員研究員)

一昔前まで、米国ユダヤ社会はイスラエル支持で団結し、それがイスラエル・ロビーの強さの源泉だった。しかし、米国ユダヤ社会内では若い世代を中心にイスラエル占領政策などへの批判が拡大しており、それに伴い新しいイスラエル・ロビーが活発に活動している。米国ユダヤ社会のイスラエルに対する見方が多様化している背景と、その政治的な意味を検討する。

16:50-17:50 全体討議 

2017年5月18日木曜日

公開講演会「「一神教」認識と他者イメージ――「エジプト人モーセ」問題とイスラーム、そして私たち」

東京国際大学国際交流研究所 
2017年度第1回公開講演会
「「一神教」認識と他者イメージ――「エジプト人モーセ」問題とイスラーム、そして私たち」

2017年5月27日(土)14:00~16:30(開場13:30)
場所:東京国際大学 高田馬場サテライト4階
[アクセス]
地下鉄東西線「高田馬場」下車、徒歩4分
JR山手線「高田馬場」下車、戸山口より徒歩3分
[会場住所]東京都新宿区高田馬場4-23-23
地図は下記のリンク先から御覧ください。
http://www.tiu.ac.jp/about/access/

講師:東京大学名誉教授 板垣雄三先生

講演要旨:「一神教vs.多神教の臆断を再考するために」
一般に一神教の歴史は、紀元前14世紀エジプトのアクエンアテンを自称したファラオ=アメンホテプ4世の宗教革命に発するとされている。ところが、一神教を代表すると自負するユダヤ・キリスト教文明の側からエジプトは一神教への対立者=偶像崇拝の巣と目される。一方、「ヘブライ人モーセ」ならぬ「エジプト人モーセ」像が一神教を止揚するものとして見なおされる動きも続いてきた。その20世紀現象としてジークムント・フロイトの最晩年の議論(渡辺哲夫訳『モーセと一神教』を踏まえて、「エジプト人モーセ」問題は近年、広く関心を集めている。その中でも注目されてきたドイツのエジプト学者・宗教学者Jan AssmannによるMoses der Ägypter: Entzifferung einer Gedächtnisspur, 1998の邦訳、ヤン・アスマン[安川晴基訳]『エジプト人モーセ:ある記憶痕跡の解読』、藤原書店)が本年1月刊行された。これまでとかく看過されてきたイスラームへの視角から「エジプト人モーセ」を考えつつ、アスマンの仕事をどのように評価できるかを、ことに一神教vs.多神教の理解において誤った臆断をかかえる日本社会の中で、問題としてみたい。

※参加費無料、事前申込不要(先着順)

共催:早稲田大学イスラム科学研究所アジア・イスラーム研究会

2017年5月13日土曜日

公開講演会:David Satran「エルサレムのイメージ:古代の視座と永遠の課題」

公開講演会
David Satran
「エルサレムのイメージ:古代の視座と永遠の課題」

日時:2017年05月20日(土)13:00-15:00
場所:同志社大学今出川キャンパス 神学館チャペル
(京都市営地下鉄烏丸線「今出川駅」下車3番出口徒歩3分)
講師:デイヴィッド・サトラン (エルサレム ヘブライ大学 比較宗教学学科長)
※入場無料・事前申込不要、逐次通訳あり
【主催】同志社大学神学部・神学研究科
【共催】同志社大学一神教学際研究センター


公開講演会:Anna Sapir Abulafia, The Contested Seed of Abraham

◆公開講演会◆
講演タイトル:The Contested Seed of Abraham (争われる種/起源としてのアブラハム)
講演者:アンナ・サピア・アブラフィア(オックスフォード大学神学哲学部教授)

講演内容:本講演では、3つの一神教をさす「アブラハムの宗教」(Abrahamic Religions)という用語が何を意味するのか、そして過去を研究し現在を考えるにあたってこの用語がどれほど有効であるのかについて論じる。その際キリスト教徒、ユダヤ教徒、イスラム教徒のあいだで、それぞれのアイデンティティを巡ってそれぞれの思想が交錯していた歴史的状況の意義を、グローバルな文脈のなかで考察する。

講演者略歴:1952年生。ケンブリッジ大学講師をへてオックスフォード大学神学哲学部教授。主要業績に、(ed. with G. R. Evans), The Works of Gilbert Crispin, Abbot of Westminster (Oxford U.P., 1986); Christians and Jews in the Twelfth-Century Renaissance (Routledge, 1995); (ed.), Religious Violence between Christians and Jews: Medieval Roots, Modern Perspectives (Palgrave MacMillan, 2002); Christian-Jewish Relations, 1000-1300: Jews in the Service of Medieval Christendom (Routledge, 2011) がある。

日 時:2017年6月9日(金)17時-18時(講演後質疑応答)
場 所:東京大学本郷キャンパス法文1号館214番教室
言 語:英語(翻訳原稿あり)
司 会:高山博(東京大学大学院人文社会系研究科教授)
主 催:KAKEN(課題番号15KK0062)
後 援:西洋中世学会
連絡先:小澤実(立教大学文学部准教授)

2017年2月16日木曜日

公開シンポジウム:「ユダヤ版『イエス伝』――史的イエスと文学的虚構の間で――」

公開シンポジウム:「ユダヤ版『イエス伝』――史的イエスと文学的虚構の間で――」
 「キリスト」として知られるイエスは、ひとりのユダヤ人でした。そのユダヤ人の教えは、しかし従来のユダヤ教とは異なる宗教、「キリスト教」として発展を遂げ、やがて地中海からヨーロッパにかけての地域を席巻します。一方、この過程でキリスト教社会に取り囲まれることになったユダヤ社会には、長らくイエスについての別の伝承が息づいてきました。歴史的証言と後代の想像とが入り混じるこの伝承のなかで、イエスはどのように描かれてきたのでしょうか。
 きたる3月、ユダヤ版『イエス伝』とでも言うべきテクスト、תולדות ישו (Toledot Yeshu)を主題としたシンポジウムを、以下の要領にて開催いたします。キリスト教社会との緊張のなかで生じた論争文学としてのその特性、文献としての成立過程やユダヤ固有の特徴、世俗化の進む近代以降のその評価のありようなどを、俯瞰的に再考する試みです。いまださほど知られていないユダヤ文献の世界に直接触れる、またとない機会になることと思います。

皆様のご来場をお待ちしております。(※参加費無料・事前申し込み不要)

 日時: 2017年3月11日(土) 13:00-17:30
 場所: 東京大学 法文一号館215教室
     (http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam01_01_01_j.html)

 プログラム:

  13:00 - 13:10  趣旨説明 勝又 直也 (京都大学 准教授)

  13:15 - 14:00  志田 雅宏 (日本学術振興会 特別研究員PD)
         「『トルドート・イェシュ』におけるイエス物語の論争性」
  14:00 - 14:45  山城 貢司 (ヘブライ大学 Ph. D.)
         「תולדות ספר תולדות ישו : 猶太的反福音調和」
    (休憩)
  15:00 - 15:45  向井 直己 (京都大学 特定研究員)
         「歴史・伝記・物語――Leben JesuとToledot Yeshu」
    15:45 - 16:15  コメント 矢内 義顕 (早稲田大学 教授)
    (休憩)
  16:30 - 17:30  全体討論

主催: 科学研究費補助金 基盤研究(A)
    「ユダヤ文献」の構成の領域横断的研究――伝統文献概念の批判的再構築に向けて
     (研究代表者: 勝又 直也 (京都大学))

問い合わせ:京都大学 人間・環境学研究科 勝又研究室 (担当:向井 直己)
   Tel: 075-753-6752  mail: mukai.naoki.6a@kyoto-u.ac.jp


2017年1月23日月曜日

公開シンポジウム・セミナー イエス時代のユダヤ共同体における宗教的要素と物質的要素

公開シンポジウム・セミナー
イエス時代のユダヤ共同体における宗教的要素と物質的要素
Religion and Material Culture in the Age of Jesus of Nazareth

シンポジウム
2017年1月29日(日) 13-18時
東京大学駒場キャンパス 5号館523教室

13:00-13:15
趣旨説明 市川裕

13:15-13:45
江添誠
Religious Identities of Decapolis as Refrected by the City-Coins: With a focus on the images of Tyche
コインに刻まれたデカポリス都市の宗教的アイデンティティー―女神テュケーの画像を中心に―

13:45-14:00
コメント 中西恭子

14:10-14:40
牧野久美
The Jewish Dietary Customs and Sense of Purification in Ancient Palestine: The Etic and Emic Approaches to the Archeological Materials
古代パレスティナにおけるユダヤの食の規定と穢れの概念:考古学者と生活者の視点から

14:40-14:55
コメント 小野塚拓造

15:15-16:15
モルデハイ・アヴィアム Mordechai Aviam
The Role and Functions of the Synagogues in the Second Temple Period as as Illminated by Archeology
考古学から見た第二神殿時代におけるシナゴーグの機能と役割

16:15-16:30
コメント 山野貴彦

16:50-17:50
全体討論


セミナー(*要予約。問い合わせ先はポスター参照)
2017年1月31日(火) 14-18時
東京大学本郷キャンパス 法文1号館219教室

モルデハイ・アヴィアム
Historical Significance of the Jewish Cities in the Galilee in the Late Antiquities


主催
科学研究費助成金基盤研究A
「ユダヤ・イスラーム宗教共同体の起源と特性に関する文明史的研究」(代表者:市川裕)